落ち着いた雰囲気に綺麗な顔立ちといわれて、土方や馬越辺りがふと浮かんできたが、恐らく花が言っているのは桜花が使用人となった後の話だろうから、新撰組いうことはまず無いということで消去する。
と言うことは、公司報稅 吉田か桂のどちらかだと思った。二人とも条件に該当していた。
桜花は花に礼を述べると暖簾を潜って店を出る。
しかしその二人が自分に何の用があると言うのか。
歩きながら顎に手を当てて唸った。
ただ単純に身を案じてくれただけなのか、それとも何か用があったのか。
そもそも、その二人だという確証は何処にも無いのだ。
多分、あの旅籠へ行けば桂の行方くらいは把握出来るだろう。
だが、大して親しくも無いのにいきなり押し掛けるのは如何なものか。
もしも桂で無かったときの場合を考えると居たたまれなくて、どうも勇気が湧かなかった。
結局、もやもやしたものを感じながらも結論は出なかった。
今考えても仕方ないと首を横に振り、気を取り直して歩き出す。
連なる店を見ながら気の赴くままに進んでいるといつの間にか清水寺への参道を歩いていた。
すっかり観光気分の桜花はそのまま参拝でもしようと坂を上っていく。
そしてその先でとある人物と再会を果たすのだった。鮮やかな朱塗りの仁王門を潜って本堂への道を進む。参拝を済ませると、清水の舞台から景色を眺めた。
左下には音羽の滝、右側を向けば京の町が小さく見える。
目を閉じて小さく深呼吸すると新鮮な空気が肺を満たした。
こうして見ると本当に此処は違う時代なのだと実感させられる。
一体何のために自分は此処にいるのか。神の悪戯なのか、それとも何か意味があってのことなのか?
毎日着物と袴を着、草履を履く。そして出掛ける際には太刀を差して鮮やかな朱塗りの仁王門を潜って本堂への道を進む。参拝を済ませると、清水の舞台から景色を眺めた。
左下には音羽の滝、右側を向けば京の町が小さく見える。
目を閉じて小さく深呼吸すると新鮮な空気が肺を満たした。
こうして見ると本当に此処は違う時代なのだと実感させられる。
一体何のために自分は此処にいるのか。神の悪戯なのか、それとも何か意味があってのことなのか?
毎日着物と袴を着、草履を履く。そして出掛ける際には太刀を差してり、もはや武士の形が崩れつつあるこの時代だからこそ黙認されていた。
サアッと風が吹き、髪が揺れる。
その時だった。突然に左胸の刻印が疼き出す。
そして引き付けられるような、何かを感じて振り向いた。
「貴方は……」「晋作も君の行方を案じていたよ」
「高杉さんが……。そうだ、高杉さんの所在をご存知ですか?」
旧知の仲だという吉田ならば知っているかも知れないと僅かに期待を寄せた。案の定、吉田は頷く。
だが返ってきた答えは予想外のものだった。
「晋作は…もうこの京にはいない。国へ帰ったよ」
桜花は驚きの色を隠せない。
「何故……。脱藩は重罪では…」
捕まったら罪に問われる筈だというのに。桜花の言葉に吉田は内心驚いた。
「…成る程。其処まで知っているんだね」
そしてそう小さく呟くなり、不意に踵を返す。
数歩進んで、ふと振り返ると手招きした。
「…付いてきてよ。此処では人目に付くから」
桜花は頷くと、どんどん進んでいく吉田の後を追う。二人はただ無言で歩いていた。
吉田は生来口数の少ない方であるが、今は更に輪を掛けている。
桜花は横を歩く吉田の横顔を見上げるが、何を考えているか分からなかった。
だが一つだけ言えるのは、こうして一緒に居ると熱に浮かされたような気分になると言うことである。
まるで術を掛けられたかのような心地だった。
それと同時に吉田栄太郎という男は只者ではないと感じる。
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