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freelancemania8

不意に冬乃が小さ

 「ぁ」

 不意に冬乃が小さく声をあげた。

 彼女の視線の先を見れば、食事の前に沖田がまくっておいてやった袖が戻っていた。


 彼女には当然長すぎる袖だが、たすき掛けをさせるのもどうかなので、手首の位置まで数度折っておいたのだが、

 食事の動きを繰り返すうちに緩んでゆき、いま一気に落ちてしまったのだろう。

 

 椀と箸をそれぞれ持ったまま、https://www.mediaondigital.com/services/integrated-branding-and-creative/ 突然ぶかぶかに戻った袖に困っている冬乃に、沖田は微笑って手を伸ばす。

 丁寧に元通り両袖を折ってやりながら、

 どうも周囲から強烈な視線を、とくに土方の方角から感じるが、もちろん沖田は素知らぬふりで続ける。

 

 「すみません。ありがとうございます」

 折り終わった時、照れた微笑で冬乃が見上げてきた。

 

 ついでだから。

 「冬乃」

 新たな命令を与えることにする。

 

 「これから敬語抜きね。今夜は、必ず守ってもらうよ」

 

 わかってるよな、“お仕置き”の一環だと

 眼に籠め、見つめれば。冬乃ははっとした顔になって、

 数回瞬き。小さく、吐息とともに頷いた。

 

 

 (さて・・・守れるかな)

 

 破っても構わないが、その分 “追加”するだけだ。

  


 二人の意味深長なやりとりを受け周囲がどよめく中、沖田はかわらず素知らぬふりで再び膳へと向き直った。

 あれから沖田は、どこぞの男の服なぞさっさと己の手で最後まで脱がし、冬乃には代わりに、沖田の着物を着流しで着せたのだったが。

 

 余った裾を、女帯に比べると細い男帯で止めているため、冬乃の腹回りは異常にもたついている。もっとも、沖田の目にはそれもまた可愛い以外の何でもないものの。


 しかし冬乃は気づいていないが、寝かせていたせいで彼女の総髪は、うなじに幾すじもの毛を落として艶っぽく乱れており、

 しかもその頬はほんのりと紅潮し、どことなくとろんとした瞳はもうずっと直らぬままであり。


 この夕餉の広間で。

 見てはいけないものを見てしまったような表情で、顔を赤らめて目を逸らす者もいれば、

 先程から、ちらちらと盗み見を繰り返す者もいる。


 思いっきり。睨みつけるが如く凝視している者も、いる。

 当然それは、土方だが。

 

 

 「おい総司」

 そして土方は遂に沖田へと、その睥睨を移してきた。


 「おめえ、何した」

 “お仕置き”しろと言ったのは、土方だと。沖田は内心笑いながら、

 「何とは」

 けろりと見返せば。


 「・・・」

 変な仕置きでも本当にしたんじゃねえだろな

 と、激しく問いたげな剣呑な視線が、続いて飛んできた。

 とはいえ、この場ではさすがに声にまでは出せないのだろう、その形の良い口元を真一文字に結んだだけだ。



 沖田は目を細めてみせた。

 ええ、本当にしましたよと。

 

 「・・・ッ」

 しかと伝わったのだろう。

 土方は一瞬片手で額を抑え、それはそれは深い溜息をついた。


 「ん?どうした歳」

 近藤が、心配そうにそんな土方を覗き込むのを横目に。

 沖田は再び隣の冬乃を見遣る。


 視線を受けてすぐに沖田を見上げてきた冬乃の、艶やかに蕩けたさまを堪能しつつも、

 閨から抜け出たままの如きこんな艶姿には、他の男になぞ見せずに隠しておきたい想いと、見せつけてやりたい想いとが、胸内でせめぎ合って喧しい。


 (まあ、藤堂は・・居なくて良かっただろう)

 夕番からまだ戻っていないようだ。

 (・・こんな・・に)

 

 愛する存在に、心だけでなく、この身を愛されることが、

 これほど深く。現の意識まで抉るほどの、幸せな陶酔に冬乃を溺れ込ませてしまうのなら。

 

 それなら、

 いつかに沖田が答えたように。

 肉体に魂が囲われるこの世での、これ以上ない限界にまで、

 互いの、肉体が、

 魂が。

 

 近づけた時には。

 

 

 (その時は、・・いったい・・どんなに・・・)

 


 

 

 唇の奥へと挿し込まれた舌に、冬乃は瞬く間に翻弄されながら、追いつかない息で胸から喘いだ。

 沖田の指は冬乃を、あの夜のように、容易に蕩かして。

 「…ン…、…んー…っ………」


 このまま、愛する想いの儘に、


 (総司、さん・・・っ・・)

 

 貴方に、抱かれたい。

 

 全てが貴方の事だけになって。

 他の何にも、囚われず。



 決して叶ってはならない、この想いは。

 

 もうずっと、前から、今そして更に、こうして沖田に触れられるたびに強くなってゆくばかりで。冬乃の心を残酷なまでに蝕む。

 

 

 

 こんな、もうひとつの、禁忌など。

 

 

 いっそ破ってしまえたなら。

 

 

 

 

 「…ン…、…っ、……ン…ーーッ…」

 

 弛緩した身を弓なりに反らせて、

 冬乃は刹那に解放された唇で、息を乱して喘いだ。

 

 沖田が冬乃を愛しげに見下ろし、冬乃の目尻に滲んだ涙をそっと拭う。

 「そぅ……じ……さ…ん…」

 整わない呼吸のなか、無性にせつなくて冬乃は沖田を呼んだ。

 

 すぐに温かな眼差しが返り。

 「冬乃」

 優しい声が応え。

 大きな手が降りてきて、冬乃の頬を撫でて。

 

 (総司さん・・)

 

 その熱い手に頬を包まれながら額に、目尻に、頬に、順に口付けられた冬乃は、

 最後に半身を抱き起こされて、優しい抱擁で包まれた。

 

 「いったん夕餉に行こうか。夜は、まだ長い」

 

 冬乃の頬に直に響いたその言葉に。

 冬乃は顔を上げる。

 

 「あとはたっぷり休息所でやるから。覚悟してて」

 

 

 (う、そ)

 

 お仕置きも、ご褒美も。未だ、終わっていなかったのだ。

 いや、何より、


 (休息所・・って・・・っ)


 冬乃は。

 再び急激に加速した、鋭いまでの鼓動を胸に。今一度、小さく喘いだ。

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