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ふと視界に映った道の反対側には

ふと視界に映った道の反対側には、為三郎達も見に来ていて。八木妻女と目が合い、互いに会釈を交わし。

 

 そのうち沖田達が、門まで辿りついた。

 

 

 「おかえりなさいませ」

 

 冬乃は押し寄せる様々な感情に震える手を握り込んで、丁寧にお辞儀をしてみせた。

 

 近藤が輪の中で、真っ先に応えてくれる。

 

 彼らが門の中へ入ってゆく中、

沖田が冬乃の前で立ち止まった。

 その服に凄まじい返り血を浴びている。乾ききっているはずなのに、むんと血の臭いがする。

 さすがの沖田も、狭い屋内の接近戦で返り血をいちいち避けている場合ではなかったのだろう。

 

 どこか青い顔をしているのが気になって、冬乃は「どうされましたか」と咄嗟に発声したものの、

 沖田を見上げながら、次に何て聞いてみればいいのか迷った時。

 「眠い」

 と第一声が落ちてきた。

 

 (え?)

 

 「ったく、こいつには脅かされたよ」

 隣に居る土方が、刹那に吐き捨てて。

 

 「会所行ったら、こいつがうつ伏せでぴくりとも動かねえから何事かと思えば、ただ眠気で昏倒してやがった」

 「昏倒、て大袈裟な。残党狩りも終えて、漸く仮眠とってたところに貴方は、」  

 「いや、おめえのあの寝方は昏倒だよ、ったく、怪我人でひしめいてる中で紛らわしい寝方しやがって」 

 (え、何)


 勃発した二人のやりとりに目を丸くする冬乃の前、沖田がげっそりと、その青い顔を土方に向ける。

 「こっちは昨日の夜明け前から、働き通しだったんですよ、ぶっ倒れるように寝てるのが当然でしょう。むしろ叩き起こされた身にもなってください」

 ・・ようするに、やっと眠れたと思ったらまたすぐ、吃驚した土方に起こされたらしい。


 「へっ、脅かすおめえが悪い」

 「ひどいな」

 

 残党狩りは夜通し行われたはずだ。

 

 (眠くてあたりまえです・・)

 

 このところの連日の巡察、五日早朝から昼過ぎまでの探索、ろくに食事もせぬまま屯所へ戻ってすぐまた会所へ向かい、夜の数時間の歩き通しに、池田屋での死闘、続いた夜通しの町中での残党狩り、

 朝になってつまりやっと仮眠したのだろうが、それも間もなく終わり、凱旋の路について、そして今は昼前。

 

 沖田のように昨日の早朝から動いていた隊士の割合は少数でも、

 おそらく皆、それなりには似たり寄ったりで、未だ冷めやらぬ興奮のおかげで、こうして起きているのだろうが、 沖田のことだから、一早くその手の興奮状態からは抜け出していて、まっとうに極度の睡眠不足と疲労に向き合っているに違いない。

 

 

 (本当にお疲れさまでした、沖田様)

 

 土方が近藤のところへ歩んでゆくのを目に。

 「冬乃さん」

 ふと、沖田が腰に下げていた冬乃からの水筒を手に取り。

 

 「ごめん。言われたとおり水は入れたんだが、出る時、会所に置き忘れてしまって飲めてない」

 

 水筒を手渡されながら、「いいえ」と冬乃は首をふった。

 振りながら。

 (あれ・・?)

 浮かんだ疑問に、おもわず沖田を見上げていた。

 

 (飲んでも無くて・・熱中症で倒れてもない・・・?)

 

 「あの、・・仮眠とられる時以外に、どこかの会所へ行かれたりも、してませんか?」

 

 「どういう意味?」

 「あ、たとえば闘いの途中とかに、・・」

 「闘いの途中?」

 

 「なんのために?」

 横からの藤堂の声に、冬乃は、はっと藤堂を見やった。

 近くで見ても、やはりその額に何も傷がないことに、冬乃は改めて安堵しながら、

 「沖田が戦闘の途中で抜けるわけないでしょ」

 呆れたように微笑う藤堂の声を受けて。

 

 「土方さん達が来てくれるまで、そもそも俺達、あの場で外に出るなんて余裕なかったよな」

 藤堂が沖田へ、こちらはまだ興奮冷めやらぬ様子で話しかける。

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